店を出ると、数時間前にまだ暮れなずんでいた空は、
すっかり夜の帳が下りていた。
否が応でも目に飛び込む押上のバベルの塔の周りを除けば、
全天さながら星屑の大海‥
その微かな、しかし確かに灯る星屑の一つが
遠藤利三郎商店なのかもしれない、
そんな連想が不意に浮かんだ。
いささか唐突だが、かつてフレンチは”しきたり”の美食だった。
(いい悪いと云う事ではなく、一部の店にとって、それは未だに真実であろう。)
もとい、フレンチはコースで食すものであり、ごく早い時間に閉まるものであり、
ドレスコードを強いるものであり、更に付け加えるなら出費がかさむものだった。
それで良かったのだ。
何故ならば、フレンチは時間もお金を自由になる、
ごく一部の美食家のためのものだったから。
時は移ろい、フレンチは市民権を得始める。
その突破口が、ワインの普及とも浅からぬ関係の、
深夜使いが出来て、アラカルトで注文出来るビストロやワインバーの出現だろう。
最初はお世辞にも誉められるものでは無かったが、
見る間にそのレベルは向上し、
一方でフレンチのメニューなど皆目分からなかった食べ手側も
好みで覚えた料理を手習いにアラカルトで頼めるくらい成熟して来た。
今や東京という世界一の美食の魔都について語る際に、
フレンチをはじめ、イタリアンも和食もその他の料理も器用に取り込んだ
ワインバーの存在に触れない訳にはいくまい。
その綺羅星も、青山や広尾、銀座といった洗練エリアに留まらず、
都内にあまねく点在する。
都市開発の側面も無論あるだろうが、下町押上にも、
安定感のある美味を提供するこの店が新星の産声を上げたのも
その証左と言える。
さて、くだんのこのお店、率直に言わせてもらうなら、
東京のワインバーのトップレベルの範疇には入らないだろう。
言い換えるならば、この店だけを目指して
押上に向かうだけのオリジナリティーも突き抜ける美味も無い。
但し、東京スカイツリーと云う最新のランドマークを絡めた物見遊山とセットなら、
この店の選択肢は悪くない。
とは言え、元からの人気店、
予約でフリー入場はしばらくシャットアウトのスカイツリーや
花火大会並みの人混み必至のソラマチ同様、
ココの席取りも心してかからねばならなくなるのも
秒読みなのかもしれない。
◆今回のお品書き
白レバーのムース 黒胡椒と蜂蜜で 〇


カマンベールチーズのオーブン焼き ダークチェリーの赤ワインソース 〇

バゲット 黒オリーブのタプナードとオリーブオイル
インカのめざめのじゃがバター 〇
真蛸とブロッコリーのアンチョビバターソテー

すみだモダン2011認定! 田中肉屋さんのお肉のパテ

ホタルイカと小柱、菜の花のペベロンチーノ


+スパークリングワイン1杯、赤ワインデキャンタ1杯、赤ワイン1本(を2人で)
(夜)8000円/人
◆ココの楽しみ方
<プロフ>
渋い屋号を祖父の本名より取り、
三代続く味噌問屋がワインバーに。
オーソドックスなビストロ料理と
定価に+1050円のワインのリーズナブルな値付けがウリ。
2009年Open。
<注 文>
メニューより、気になるものをアラカルトで。
”すみだモダン認定”のようなメニュー切り口が面白い。
料理はどれも水準以上の美味しさ♪
<雰囲気>
下町の押上らしからぬお洒落さは、
スカイツリーと云う新たなランドマーク建立を見据えての
胎動のようなものか。
重厚な木の扉の向こうには、照明をグッと落とした、
正しいワインバーの佇まいと賑わいがある。
サービスもそつの無いフレンドリーさ。
◆情報出典
『 ボンヌ・プティット・ターブル東京 2012 』
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